山間の街で育った僕にとって、海とは、わざわざ訪れる場所、見に行く場所、観光の場であった。子どもの頃は、夏に家族で泊りがけの海水浴へ出かけるのは一大イベントだったし、18歳で東京に住み始めてからも、僕にとって海は、わざわざ見に行く場所だった。
学生時代、なんとなく授業に行く気になれず、大学とは逆方向の電車に乗り、2時間かけて海を見に行ったこともあった。降り立った海の見える街は素敵なところで、「いつかこんなところに住んでみたいな」なんて思ったりした。
みんなにとって、海はわざわざ見に行くところではなく、いつもそこにあるものだっただろう。でも、この街を巣立っていくということは、これからは、そうではなくなるということでもある。住む街によっては、海は遠い場所になるかもしれない。
海のある街にあこがれて、僕は東京からこの街に移ってきた。
みんなは18歳で、生まれ育った海のある街を出ていく。
18歳とはそういうものだ。僕も故郷を18で出た者の一人だ。
もどって来いとは言わない。
自分の人生だから、好きなところで生きればいい。
でも、疲れたら、いつでも帰ってくればいい。
都会の空気に、息が詰まりそうになったら、いつでも帰ってくればいい。
海を見に、帰ってくればいい。

だから、思いっきり、行っといで!
卒業、おめでとう。
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